世界ジュニア選手権2012レポート-22

大会を終えて…

団体戦の決勝はエジプトとパキスタンと対戦となりました。パキスタンはエースを怪我で欠くなか必死に食い下がるも、力の差は歴然としており、2-0でエジプトが優勝を飾り、個人戦男女優勝も含めての完全制覇という形で大会は幕を閉じました。

日本のジュニアはそんな中で、快進撃を見せ世界ジュニアトップ6に入る快挙を成し遂げました。これは、日本スカッシュ界にとって誇りであり、大きな前進であると思います。

また、今大会はアジア勢の強さが目立ちました。ベスト8の半分はアジア勢で、トップ6に関してはエジプトとイングランド以外はアジア勢という結果になっています。当初からジュニア期まではアジア勢は世界に通用しており、その後の成長過程でヨーロッパの選手達に抜かれていく傾向にあります。原因として考えられるのは、ヨーロッパ諸国のジュニア育成のスタンスが完全に育成過程にあり、結果を強く求めていないということです。それは他の国のコーチ達との話の中で分かったことで、実際にヨーロッパ諸国のジュニア選手達のプレーを見てもかなり荒削りの部分が多く全体として雑に感じました。しかし、ボールを打つことや動き、打つボールの質は高いポテンシャルを感じ、今後のトレーニングやトーナメント経験、PSAでのプレーにより、これが安定していく可能性は十分にあると感じました。日本のジュニアも現段階では高い能力を持っていますが、これをここからどう伸ばしていくのかが、大きなポイントになると思います。

しかしながら、今回の各国のコーチ達が日本の大躍進を目のあたりにして驚きを感じたのはもちろんのこと、この成長に興味を示してきました。実際に多くのコーチから、日本の育成環境やトレーニング方法を聞かれました。ところが、現在の日本は選手とその家族、そしてその選手に関わる個人的な人達の個人的な努力によるものが大きく、協会がナショナルとして行えることは、年に数回の海外派遣と1ヶ月又は2ヶ月に1回行われるナショナルトレーニングとなっています。それを聞いた諸国のコーチ達は今回の結果に驚き、特に協会がコートを持っていない事には更なる驚きをを示していました。しかし、今回のメンバーは数年も前から個人的に海外の大会に挑戦をしてきたこと、それが大きなプラスになっていて、そこに協会派遣のアジアジュニアや一昨年の世界ジュニアでの経験が加わったことを話すと、何となく理解をした感じで、その後に日本チームの快進撃を称えてくれました。

今回は正直なところ、組み合わせや日程等の様々な状況にも恵まれていました。もちろん、それを生かすも殺すも実力です。今回の6位という結果は、4名の選手が実力で勝ち取ったものです。それは間違いのない事実ですが、もし次も同じ幸運に恵まれたとした時に、同じ結果を出せるメンバーを育成していくことができるかどうかがジュニア育成の課題であり、それはとても高いハードルであると感じています。最終戦で敗れた香港や準優勝のパキスタン、イングランドを破って3位に入ったインドなど、アジアの強国は毎年しっかりしたチームを作ってきます。それができるかできないかが、育成環境が整っているかどうかの判断材料になり、日本が持っている最大の問題であると思っています。その第一歩としても、現在進められている『国立競技場にスカッシュコートを!』という活動は大きなポイントになり、更に2020年のオリンピック種目にスカッシュを入れるという世界的な活動がどうなるかもキーになってくると思っています。またそれを待たずに、現在の状況で何ができるのかを見極めて地道に取り組んでいくことも必要不可欠な事であると感じています。

今回の大会を通じて感じた日本と他国との差は、次の3点でした。
1.基本的なボールを打つという動作に対する知識の違いと質の違い
2.それを安定して継続的に行う為のフィットネスと体の使い方の違い
3.試合の中での状況判断の力とメンタルコントロールの力の違い
今回のメンバーはこの3つを世界レベルに近い形で持っていました。それが結果となりました。但し、このメンバー以外のジュニアはというと、答えは「NO」です。上記の3つをクリアする為には、先ずは指導者が正しい知識を持ち、それを選手達に伝える能力を持ち、それを実行できる環境を作ること、そしてそれを持った選手達により多くの経験を与え的確なフィードバックをしていくことだと思います。選手達が強くなろうとするのと同時に、指導者がもっと速いスピードで知識と能力を高めていかないといけないと感じました。また、上記の3つに加えて最も強く感じた違いは『タフさ』という、今日本のスポーツ界に一番足りていない要素のような気がした遠征となりました。これは根性論ではなく、日常の練習やトレーニングを繰り返す中で培われる、ひとつの能力であると日本寄り上位の国のプレーを見て共通して感じたものでありました。

写真は、団体戦表彰式の様子と世界ジュニア団体戦6位という快挙を達成した日本男子ジュニアチームの小林僚生・机龍之介・海道泰喜・遠藤共峻(左から)の4選手です。

最後に、この遠征を2年前から全面的にサポートしてくれた日本スカッシュ協会と大会途中までサポートしてくださった足立コーチ、そしてウェアを提供してくださったミズノ株式会社様に感謝を致します。また、このミラクルチームに監督兼コーチとして帯同できたことを誇りに思い、日本代表としてのプライドを強く持ち、お互いを思い合える素晴らしいチームワークを持って最後まで戦った4名の選手達に感謝をします。

2012年世界ジュニア男子チーム 監督兼コーチ 佐野公彦

カテゴリー: ジュニアナショナル, 世界ジュニア選手権2012, 遠征リポート   パーマリンク