新企画スタート*欧州スカッシュ事情/増田リポート

イギリス在住の増田さんから、ヨーロッパのスカッシュ事情をリポートして頂くシリーズが始まります。最初にお届けするのはイングランドのクラブチャンピオンを決める大会のリポートです。


イングランドの全国スカッシュクラブ対抗戦:National Club Championship

増田和子

英国では、スカッシュシーズンが終わりをつげるこの時期、イングランドスカッシュ協会*(ESR) が様々な部門で今シーズンのチャンピオンチームを決める大会を開催する。5月21・22日に、こうした大会の一つであるNational Club Championships(通称クラブチャンプ)の決勝戦が開催された。

今年の決勝戦会場となったノッティンガムのスカッシュクラブ

クラブチャンプは、その名の通りスカッシュクラブの対抗戦で、今年の会場はイングランド中部、ノッティンガムにあるNottingham Racquet Club(NRC)。NRCは、100人余りの観客席があるショーコート1つを含む6つのグラスバックコートと4つのハードバックコート* *、合計10コートを持つスポーツクラブで、大きな大会が行われる事の多いクラブである。

U19ジュニア男女混合、男女一般、男女Over35、男子Over45、男子Over55の7部門にわたるチームが各地で予選を開催、勝ち抜いたチームがここNRCに集まった。1チーム5人で編成されるチームは、PSAやWISPAランキングを持つ選手も参加できるが、男子は1チームに100位以内のランキング保持者が2名まで、女子は60位以内が2名までとの制約がある。ただし、この制約はU19のジュニア選手には適用されないため、既に大人と互角な試合運びをするジュニア選手が大人のチームに入るとチームの戦力がより強化できる。

1部門のエントリー費用は1チーム28.5ポンド(約4,000円)で、予選から決勝までの参加費となる。参加賞は特にないが、決勝戦にたどり着いた優勝及び準優勝チームにはトロフィーが贈られる。今年は20センチ大のガラス製トロフィーだった。チームに1つであるため、あるチームでは5人のうち誰が持って帰るか相談していたらうっかりトロフィーを落としてしまい、偶然にも5つの破片に!苦笑いしながら各自が破片を1つづつ持ち帰って行った。今年のエントリーは、以下の通り。

男子 23組 ジュニア混合 9組
女子 6組 男子over45 21組
男子over35 12組 男子over55 11組
女子over35 6組


今年のチャンピオンクラブは文句無しにバーミンガムにあるEdgbaston Prioryクラブ。男子一般チームは、地元ノッティンガムのジュニア選手Oliver Holland(16歳)にPSAランカーのChris Truswell選手(Rank 116)が1試合奪われたものの、残り3試合を立て続けに確保し、二番手選手が戦う事なくして優勝を決めた。また、女子一般チームも確実に3試合を確保、男女ともに圧倒的な強さで優勝した。

女子一般の準優勝とジュニア男女混合の優勝を果たしたPontefractクラブは、今も昔も強いジュニア選手がたくさん育っているイングランド北部、ヨークシャーにあるクラブで、James Willstrop選手の出身クラブでもある。ジュニア男女混合準優勝のWimbledon R & Fクラブは、南ロンドン、駅近という便利な位置にあり、多くの熱心なアマチュア選手が仕事帰りに集まるクラブであり、ブリティッシュ U17チャンピオンのCharles Sharps選手の出身クラブでもある。このCharles Sharps選手のコーチでもあるPhil Rushworth選手は、実はPontefractクラブ出身でジュニア時代にはJames Willstrop選手と1.2を争うライバル同士であった。

<男子一般:ファイナルチームと試合結果>

Edgbaston Priory ランキング 試合結果 Nottingham ランキング
1 Chris Ryder PSA Rank 48 3-0 Eddie Charlton PSA Rank 116
2 Joel Hinds PSA Rank 74 N/A Lewis Walters PSA Rank 127
3 Jonathan Hartford PSA Rank 108 3-0 Mark Fuller PSA Rank 256
4 Chris Truswell PSA Rank 116 0-3 Oliver Holland U17 Junior No.2
5 Anthony Graham PSA Rank 135 3-0 Neil Rossin

<女子一般:ファイナルチームと試合結果>

Edgbaston Priory ランキング 試合結果 Pontefract ランキング
1 Vicky Lust WISPA Rank 37 0-3 Vanessa Atkinson Former WISPA No1(2005)
2 Lauren Selby WISPA Rank 54 0-3 Deon Saffery WISPA Rank 86
3 Leonie Holt WISPA Rank 70 3-1 Katie Smith U19 Rank 2
4 Vicky Hynes WISPA Rank 54(2009) 3-0 Sarah Bowles WISPA Rank 269
5 Julianne Courtice WISPA Rank 253 3-0 Hannah Shipley U17 Rank 20

<ジュニア男女混合:ファイナルチームと試合結果>

Pontfract ESランキング 試合結果 Wimbledon R&FC ESランキング
1 George Wileman U19 Rank 49 4/11 9/11 11/7 3/11 David Wardle U19 Rank 22
2 Taminder Gata Aura U17 Rank 3 11/5 6/2 棄権 Daniel Z-Lewis マルタ共和国代表
3 Alex Hodgetts U19 Rank 20 11/7 11/6 11/7 Seigo Masuda U17 Rank25
4 Katie Smith U19 Rank 2 W/O to Pontefract Nada Elkalaawy WISPA 148
5 Hannah Shipley U17 Rank 20 7/11 14/12 11/8 9/11 11/9 Clare Wright U17 Rank 54


今回紹介したクラブチャンプのようなチーム対抗戦は他にもある。例えば、学校対抗戦(National School Championship)、県内で行われているクラブ対抗リーグ戦の優勝チーム同士が対戦するナショナルカップ(National Cup)、日本で言う関東・関西などに相当する地域の対抗戦(Regional Team Championship)、県代表対抗戦(Inter County Championship)等がある。中でもこの県代表対抗戦はESRが運営する最大の大会で、ジュニアからシニア選手を含めた2000人を超える参加がある。いずれも、一定以上のイングランドランキングが必要だったり県内リーグ優勝などの戦績が必要だったりと出場要件が結構厳しい。

一方、クラブチャンプの特徴は、ESR協会会員で、クラブに所属していれば、老若男女を問わず5人のチーム選手を揃えることで誰でも参加できることにある。もちろん予選を突破し決勝戦に残れるかどうかはチームの強さに依存するが、参加のハードルは低くアマチュアに広く参加機会を提供している大会である。

そして、こうした大会は、ESR主催の大会とはいえ、決勝戦の日までに各地で開催される予選のアレンジや、参加チームを編成し大会へ選手を送り出している各クラブに所属するコーチ達の協力があってこそ成立している。大会に参加すると、全国に広がるスカッシュクラブとコーチ達の地道な協力により支えられている英国スカッシュの広い裾野を知ることができる。

試合の様子(センターの高いところからジャッジしている)

コート脇上部の通路から試合を見下ろす観客


*英国はイングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドの4国で構成されており、各国の協会がそれぞれナショナルチャンピオンシップ(日本の全国大会に相当)を開催する。数年前、近年競技人口が増加しているラケットボールも同協会の対象競技となった。現在はイングランドスカッシュ&ラケットボール協会と名称が変更されているが長くなるので本稿では旧名称を使用する。

**スカッシュ豆知識:ハードバックコートとは、サイドと同じ様なコンクリート等の壁とドアでバックウォールができたコートのこと。英国はこのタイプのコートが多く、上から覗き込むように試合を観戦する。ドアに小さなのぞき窓が付いている場合がある。


著者自己紹介*増田和子(ますだ・かずこ)

競技スカッシュの世界にのめり込んでしまった息子に付き添い、英国そして欧州各地のスカッシュイベントを訪れている。数年で帰国する予定が未だに英国滞在中。スカッシュは狭い場所で思いっきり運動できる日本にぴったりのスポーツと信じ、その普及を願い、スカッシュ発祥の地より欧州スカッシュ事情のリポートをお届けします。

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