レポート:イングランドの伝統的な私立学校「パブリックスクール」受験とスカッシュ奨学金

2012/12/15
増田和子

今回は、英国の高校受験とスカッシュについて。英国の伝統的な学校であるパブリックスクールと呼ばれる私立学校とスカッシュの事を紹介します。英国の私立学校は世界中から良い生徒を集めるという姿勢が明確で、条件さえ合えば、大抵の場合留学生を受け入れます。中でもスカッシュやスポーツでスカラシップ等の特典のある学校を取り上げてみました。

イングランドのパブリックスクールとは

イングランドのパブリックスクールとは、公立学校と勘違いされることもありますが(米国では公立学校の意味)、お金を払えば誰でも教育が受けられるパブリックにオープンな学校と言う学校で、選抜試験がありお金を払って行く学校という意味で日本の私立学校に相当します。その昔、英国の上流階級の子弟を教育する学校として創設された学校で、大学進学を前提とした学業・スポーツ・芸術等を含む全人格的な教育を行う学校です。生徒は、ハウスと呼ばれる学年をまたぐ小規模なグループに所属し、大抵場合この単位で寮生活をする寄宿制度に支えられた集団生活の中で、様々なことを身につけて行きます。

1868年のPublic School 法制定当時、パブリックスクールと認定された学校は、7校の寄宿学校と2校の通学制学校でした(表1参照)。1889年版のPublic Schools Yearbookには25校がパブリックスクールとして記載されているそうですが、パブリックスクールと呼ばれる学校に明確な定義はないようです。

表1:イングランドのPublic School法が認定した初期パブリックスクール9校

学校名 設立年 就学期間
13-16 16-18
Charter House 1611 男子 共学 寮/通学
Eton 1440 男子 男子 全寮制
Epsom 1855 共学 共学 寮/通学
Harrow 1572 男子 男子 全寮制
Merchant Taylors’ 1561 男子 男子 通学
Rugby 1567 共学 共学 全寮制
St. Paul’s 1509 男子 男子 通学(寮有り)
Westminster 1179 男子 共学 寮/通学
Winchester 1382 男子 男子 寮/通学

パブリックスクールのスカッシュ

パブリックスクールは生徒に対する学業成績への期待は高いのですが、実際の学校生活ではそうとは思えない程スポーツや演劇、コーラス等他の分野にも相当力をいれています。試験期間中でもおかまいなしに学校対抗戦を行い、生徒が必要に応じて時間を調整する事は可能なようですが、時間割上のスポーツをする時間が試験のために減らされる事はありません。スカッシュは、天候に恵まれず、日没が早まる冬期のスポーツとして重宝されており、大抵どこの学校にもスカッシュコートが整備されています。一年の半分が冬とも言える英国では、室内で楽しめる体育の一種目として生徒達に親しまれているようです。

英国の花形スポーツと言えば、ラグビー、ボートそしてクリケットですが、スカッシュも学校対抗戦の種目になっており、近隣の学校を集めたリーグを形成し、5人一組のチームで毎週のようにホーム&アウェイの試合を行っています。例えば、スカッシュ発祥の地でもあるHarrow校の学校対抗戦は、宿敵Eton校との試合はもちろん、その他、St. Paul、Winchester、Charterhouse、Lancing、Wellington、Epsom、Aylesbury、Berkhamsted、Marlborough、Radley、Jesters、Bedford等の学校との間で頻繁に行われています。

この他、特定の学校を集めその年の優勝校を決めるスカッシュ大会もいくつか開催されています。例えば、ロンドン近郊の学校が集まるものには、パブリックスクールの1つであるEpsom校が主催する「Lexus Cup[1]」や、Roehamptonというスカッシュクラブで開催される「Roehampton  Club School Squash Invitation[2]」があります。世界的に有名なウィンブルドンテニス大会も、元はあるスポーツクラブが主催していたローカルな大会でした。地域の小さな大会が世界的な大会に成長するものが現れるのが英国かもしれません。

こうした大会の中で、最も注目が集まるのが「National School Championship」という全国大会です。およそ4校1グループに分割された地域予選を通過した32校が、ノックアウト式のトーナメントを毎年1月頃に開始、春のイースター休暇を目前にする時期、決勝戦が国立スカッシュ競技場であるマンチェスターで行われます。ここ数年の強豪校は、スカッシュに力を入れていることで有名なWycliffe校とEl Shorbagy兄弟も在籍し海外から多くのスカッシュ選手を集めているMillfield校です。こうした大会に出場するために、そして全国大会で良い成績を上げるため、各校はスカッシュの強い選手を求めています。高校受験では、スカッシュも学業に加え学校が生徒に求める資質を示せるものの1つとしてメリットがあると言われています。

パブリックスクールのスカッシュ奨学金

パブリックスクールが音楽関係で奨学金を出すことは有名ですが、このように文武両道を目指す学校は、スポーツ奨学金を用意している所があります。残念ながらスカッシュはメインスポーツではないため、スポーツ奨学金の対象種目にはなっていない場合もありますが、以下参考までに、スカッシュで奨学金をもらえる可能性のある学校をリストしてみました(表2参照)。この他、All rounderといい、1分野を取り上げた場合には最高とは言えない成績でも、スポーツやその他の学外活動と学業の両分野に渡り押し並べて平均以上の成績を出している生徒に対する奨学金を用意しているケースがあります。

表2:スポーツ奨学金のある学校例

学校名 就学期間 資金援助/奨学金
13-16 16-18
Wycliffe 共学 共学 スポーツ奨学金

収入に応じた資金援助

寮/通学
Millfield 共学 共学 スポーツ奨学金(最大50%収入に応じ100%可能) 寮/通学
Charter House 男子 共学 スポーツ奨学金(上限10%)

収入に応じた資金援助

寮/通学
Eton 男子 男子 収入に応じた資金援助 全寮制
Epsom 共学 共学 スポーツ奨学金(収入に応じ100%可能) 寮/通学
Harrow 男子 男子 スポーツ奨学金(5%から)

収入に応じた資金援助

全寮制
Rugby 共学 共学 Arnold Foundation(10人に1人が受給)

スポーツ奨学金(10%から収入に応じ増額、スカッシュ無)

全寮制
Shrewsbury 共学 共学 スポーツ奨学金(20%まで) 寮/通学

ハウス制度に支えられた英国の伝統的な学校の寮生活は、親元を離れることへの不安等もあり、英国内でも賛否両論あるようです。各学校の特徴や子供の性格等の関係で、全ての子供に取って適切な教育環境と言うことはできませんが、勉強、運動、音楽等をする場所やその他諸々の子供達が必要なサービスが全て一カ所に集まり、そして、先生や友達がいつでも一声かければ答えてくれる距離にいることがこうした全寮制学校の1つのメリットです。


[1] 2011年度の参加校:Tonbridge、Epsom、Whitgift、Kings Canterbury、Reeds、Charterhouse、Berkhamsted、St Paul、Kings College School、Brighton、Solihull

[2] 2011年度の参加校:Charterhouse、Eton、Harrow、Lancing、Radley、St Pauls、Wellington、Wincester

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